親知らずの抜歯
- 親知らずがまっすぐに生えており上下の親知らずと噛み合っている
- 虫歯や歯周病の症状がなく、周囲の歯に悪影響を及ぼしていない
- 歯茎が覆いかぶさるなどのトラブルがなく、歯磨きがしっかりと出来ている
親知らずが腫れた
親知らずを抜きたい
親知らずは永久歯の中で最も奥に生える歯のことです。
多くの人は15歳前後に生えますが、20代前半になって生えてくる人もいます。
親に知られることのない年齢で生えてくることから、「親知らず」という名前で呼ばれています。
親知らずが横や斜めに生えてきた場合は、歯に隙間ができて炎症が起こりやすく、強い痛みや膿が出ます。重症化すると口が開かなくなることもありますので、早めのご来院をおすすめします。
隠れたリスクも洗い出す、CTによる精密分析
親知らずの抜歯はしっかりと事前の診査診断を行わなければ血管や神経を傷つけてしまい、多量の出血や麻痺が生じる場合もあります。
特に下顎の親知らずの場合、根の先が下顎の骨の中にある下歯槽管の近くにあることが多いのですが、この下歯槽神経が傷つけられると、下唇や下顎の皮膚、口腔内粘膜や歯茎が知覚障害を起こし、会話や食事が上手にできなくなってしまうこともあります。
レントゲン写真では、親知らずの歯がどのように顎の骨に埋まっているのか、神経が親知らずと接触しているかどうかの確認が正確に行えないため、CT撮影をして親知らずの埋まり方や歯根の形、神経や血管との距離など正確に診断する必要があります。
また歯茎に埋まっている親知らずや横向きに生えている親知らずも、根の先と下顎管が近接しているケースが多いため、抜歯の際にはCT撮影による事前の綿密な診査診断がとても重要です。
抜歯後の痛みや腫れについて
「親知らずの抜歯はとても痛い、と聞いたので怖い」
きっと多くの方がそう思っていらっしゃるのではないでしょうか?
しかし実際は、抜歯時にはしっかり麻酔をしますので、痛みを感じることはありません。問題になるのは、抜歯後に麻酔が切れたときの痛みや炎症による腫れです。
術後の腫れや痛みは、主に下記のような原因で起こります。
抜歯手術にどれだけ時間がかかったか
抜歯後の腫れや痛みは、手術に要する時間と比例すると言われています。
これは、親知らずを抜く際に、あごの骨を削ったり歯茎を切開したりするといった外科的な侵襲を加えるため、体がその侵襲に対して治そうと働きかけて炎症反応を起こすからです。
斜めに生えている、骨に埋まっている、根が曲がっているなどといった難しいケースほど身体への侵襲が大きく、手術時間も長くなりますので、術後の痛みや腫れも強くなると考えてよいでしょう。
痛みと腫れを軽減するためには、短時間で、歯茎の切開を最小限にして、骨をなるべく削らないで、処置を終えることがポイントになります。
術後感染
抜歯をした後の傷口に細菌が感染した場合、痛みや腫れなどの炎症症状がおこります。
術後感染は、指示された抗生物質をしっかりと服用することで予防することが出来ますが、口腔内が不潔な状態の場合、患部にばい菌が入りやすくなってしまうため、抜歯前にクリーニングをして口の中の細菌を少しでも減らしておくと、さらにリスクを軽減することが出来ます。
また、免疫力が低下している場合も術後感染しやすくなってしまいますので、抜歯後はなるべく安静にし、激しい運動や飲酒は避けるしましょう。
痛みが治まらない時は「ドライソケット」の可能性も
「ドライソケット」とは、親知らずなどを抜歯した後の穴がふさがらず、骨が露出してしまう状態のことを言います。
通常であれば、抜歯した後の穴は血餅と呼ばれる血液の塊で塞がり、その上を少しずつ皮膚が覆うことでふさがっていきますが、ドライソケットでは、何らかの原因で血餅ができず、日にちが経っても抜歯した部分の治癒がはじまらないため骨がむき出しの状態が続きます。
そうすると、その穴に汚れなどが入り込み露出した骨に細菌が感染してしまうことで炎症が起き、激しい痛みを引き起こします。
喫煙者や貧血がある方などは生じやすくなりますが、うがいをしすぎてしまったり、舌で傷口を触ってしまったりと、血が固まりにくくなるようなことをしてしまった場合も、ドライソケットになってしまう可能性が高くなります。
抜歯後、3~4日経過してもまだ痛みが続く場合は、「ドライソケット」が疑われますので、歯科医師に相談してみましょう。通常は、改めて適切な消毒処置と抗生物質の服用をすることで傷口は落着いてきます。
親知らずは、抜いた方が良いとは限りません
親知らずというと、「なるべく早めに抜くべきもの」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかと思います。
確かに、現代人は昔に比べて顎が小さく、親知らずが歯列にきれいに収まらないケースが増えているため、歯列不正や斜めに生えるなどといったトラブルを起こしてしまう親知らずが増えているのは事実です。
ですが、中には正常にまっすぐ生えている親知らずもありますので、親知らずだからと言って必ずしも抜かなくてはいけないわけではありません。
親知らずの抜歯には少なからずリスクが伴うものですので、親知らずを抜くかどうかの判断は慎重に歯科医師と相談されることをおススメします。
抜かなくても良い親知らず
下記の条件を満たす親知らずであれば、無理に抜歯する必要はないでしょう。
状態のいい親知らずは、ほかの奥歯が悪くなって抜かなければならない場合に、その部分へ移植(自家歯牙移植)することができる可能性もありますので大切にケアしながら、将来のリスクのために温存しておくことをおススメします。
抜いたほうが良い親知らず
親知らずが口腔内や周辺の歯に悪影響を及ぼしている状態であれば、できるだけ早めに抜いたほうが賢明です。
また、将来的に悪影響を及ぼすことが予想される場合でも、若いうちに抜いておいた方が良いでしょう。
あごの骨は20代後半から徐々に硬くなっていきますが、骨が硬くなると抜歯に時間がかかってしまうため、若い人と比較して術後の腫れや痛みが強くなる傾向があります。
また、年を取ると免疫力が落ちて術後の回復が遅くなりますし、女性の場合ですと、妊娠出産時期には女性ホルモンの関係で歯周病リスクが高まるため、親知らずが炎症を起こして苦労するケースも多々あります。
妊娠中の親知らずの抜歯や、高齢になって体力・免疫力が低くなってからの抜歯はなるべく避けたいですので、下記のような場合は早めの抜歯をおススメします。
親知らずが斜めや横向きに生えている場合
親知らずがまっすぐ生えておらず、斜めや横向きになっている場合、汚れが溜まりやすく虫歯や歯周病のリスクが高い状態になっていると言えます。
身体が健康で免疫力が高く、しっかりと口腔ケアができているときは症状が抑えられますが、体の免疫力が落ちたり、妊娠出産などで歯周病リスクが高まる時期にトラブルを起こしてしまうケースが多々あります。
また、親知らずが隣の歯を押すことで、歯並びが悪くなったり歯が弱くなったりしてしまう可能性もありますので、将来的にトラブルが予想される親知らずの場合は早めに抜いておくことをおススメします。
親知らず自体が、虫歯や歯周病になっている場合
親知らずがむし歯や歯周病になっている場合、まわりの健康な歯にも影響が及ぼんでしまう可能性がありますので、抜歯した方が良いでしょう。
ですが、親知らずがまっすぐに生えていて上下の歯とかみ合っており、かつ、むし歯や歯周病の症状が軽度の状態であれば、治療したうえで残すという判断をする場合もあります。
歯茎が上に覆いかぶさっている場合
歯茎が覆いかぶさっている親知らずの場合、歯茎と親知らずの間に汚れがたまりやすく、「智歯周囲炎」を起こしてしまうリスクが高いです。
智歯周囲炎とは、親知らずの周囲に起こる炎症のことで、重症化すると他の人が見てわかるくらいに顔が腫れたり、発熱・倦怠感といった全身症状が起こる場合もあります。
軽度の症状であれば、患部を清潔に保つことで解消されることがほとんどですが、何度も炎症や痛みを繰り返す場合は将来的なリスクを考慮して、早めの抜歯をおススメします。
噛みあわせがあっていない場合
親知らずが上下どちらかのみに生えていて噛み合う歯のない状態になっている場合、頬や他の歯茎を噛みやすくなり、腫れや痛みの原因となってしまいます。
また親知らずの異常な生え方によって歯並びや噛み合わせが悪くなると、顎の関節に負担がかかり、顎が痛い、口が開けにくくなるなどといった顎関節症の症状があらわれる事もあります。
矯正治療を考えている場合
矯正治療を受けている方の場合、親知らずが残っていると治療後に生えてきた親知らずによって奥から前に向かって力がかかってしまうため、後戻りを起こしやすくなります。
また、既に親知らずが生えている方で矯正治療を検討されている場合でも、親知らずがあることで奥に歯が動かないために抜歯をすることもあります。
矯正治療は長期計画が大切ですので、担当の歯科医師とよく話し合い、抜歯の判断や時期を決めましょう。